「おもてなし幻想」という顧客満足についての本を読んだ感想です。ずいぶん前に読んでたけど改めて内容や感想をまとめてみました。直近のバイブルだと思ってます。
Ⅰ. 内容サマリ
1. ロイヤルティとは
- 「ロイヤルティ」が確立していれば自ら望んで顧客であり続ける
- ①再購入
- 引き続き購入する
- ②顧客シェア
- 時間経過とともに購入が増える
- ③アドボカシー
- 知り合いにまで会社をほめる
- 「ロイヤルティ」を議論するときに、以下のような根本的な課題がよくあがる
- 重要性:ロイヤルティを高めるうえで、カスタマーサービスはどの程度重要か?
- なにができるのか:ロイヤルティをたかめるためにカスタマーサービスが出来ることはなにか?
- コストとロイヤルティの両立:コスト削減とロイヤルティ向上の両立をどうやってやれるか?
ロイヤルティに関する結論
- ロイヤルティに関して、一般に既に受け入れられている見解に対する結論がある
- 喜び(満足)の戦略は割に合わない
- 期待以上のサービスを受けた顧客と、満たされただけの顧客にはロイヤルティの差がない
- データから、顧客の観点では何か問題が起きたときに心を支配しているのは解決に力を貸してほしいという感情である
- 「満足度」はロイヤルティの予測因子じゃない
- カスタマーサービスインタラクションはロイヤルティではなくディスロイヤルティを促す
- ひどいカスタマーエクスペリエンスが否定的な口コミをする可能性が非常に高い(65%)
- よいカスタマーエクスペリエンスは25%しか良い口コミをしない
- 製品を理由に企業を選びながら、サービスの失敗のせいでその企業から離反することがたびたびある
- ディスロイヤルティ緩和のカギは顧客努力の軽減
- 以下のようなことがディスロイヤルティの要因になりうる
- たびたび連絡を取る必要があること(「初回解決率」・「次の問題回避」)
- 画一的なサービス(機械的な対応)
- 情報の繰り返し(同じ話をさせられる)
- 解決のためのさらなる努力の認識(応対を上手くやる)
- たらい回し(チャネル転換、別担当者に回される)
努力をあまり要しないサービスの4つの原則
- チャネル転換を最小限に抑える →セルフサービスの「有用性」を高める
- 「次の問題回避策」を実践する
- 「感情面」に上手く対応する →経験工学戦術を使う
- 努力を軽減するための権限をサービス担当者に与える
2. セルフサービスの有用性を高める(4原則の1)
- 顧客の意識はここ10年でセルフサービスを希望するようになったが、大半のサービス戦略は追いつていない
- 「セルフサービス」は効率が良いもの
- 一方で「チャネル転換」は悪!
- ウェブサイト→TELも「チャネル転換」に含まれる
- 企業のTELの58%がセルフサービスを試した結果TELすることになったもの
- TEL問い合わせの三分の一以上はウェブサイトも閲覧している
- なお、年齢に関係なくウェブサイト選好の割合は高く、企業の「電話神話」は崩壊している
- なのになぜTELはなり続けるのか…?
- ウェブサイトで解決できないから
- だからチャネル転換が発生する
「チャネル転換を防ぐには?」
- チャネル転換を促進している要因
- 顧客が必要な情報を見つけられなかった
- 顧客は情報を見つけることができたが、不明確だった
- 顧客は企業に電話をかけようとして、単に電話番号を見つけるためだけにウェブサイトを利用した
- これらを軽減するにはウェブサイトの簡潔さが大変重要
- たとえば要因を質問してみたりする
- 「セルフサービスを使ったか?」
- 「はい」→「なぜTEL問い合わせに至った?」
- 「いいえ」→「オンラインに追加してほしいか?」、「見れるのを知っているか?」
「必要な情報を見つけられなかった」の対策
- 「選択のパラドックス」かもしれない
- ある決断に対して、選択肢が多ければ多いほど、良い決断をする能力は損なわれるという現象
- 低努力のほうがチャネル選択より圧倒的に指示されている
- マスタカード、Amazonの例
- 忘れてはならないのは「チャネルの選択」が問題になるべきではなく、「顧客の問題」が問題であるということ
「情報を見つけることができたが、わかりにくかった」の対策
- ルールを考えてみたらどうか
- 言葉を単純化する →複雑な他音節の単語を除く、文を短くする
- 検索結果ゼロを減らす
- 関連情報をチャンキングする →スペースを上手く使う
- 専門用語は避ける
- 主語・動詞をはっきりさせる
「ただ電話番号を探していただけ」の対策
- 電話番号のページに一番問い合せ多いページリンクを貼ると良さそう
3. 「次の問題回避策」を実践する(4原則の1つ)
- 「隣接する問題」の分析、潰しこみが大事!
- 「顧客は自分が何をわかってないかをわかってない」ということを理解すべし
- 再問い合わせはエフォートレスの天敵である
- 企業はFCR(初回解決率)を70~80%としているが、顧客の認識は40%程度
- すでにギャップが発生している(= 思った以上に顧客は再問い合わせしている)
顕在化した問題と潜在的な問題
- 再問い合わせのうち54%が「正しく解決できなかったために起きたもの」 = 顕在化した問題
- システムエラー起因、スタッフのミスとかが主要因
- これらの打ち手はプロセスリエンジニアリングとかでかなりリソースをかけてやってきたもの
- 残りは顧客の最初のニーズを超えたもの = 潜在的な問題
- 派生している問題のことで、あとになって回答を疑ったり、情報をすべて得られなかったと感じるようなもの
- これらはさらに「隣接的な問題」と「経験の問題」に分かれる
- 「経験の問題」に関しては顧客の「感情」をコントロールした対応が必要
- →詳しくは「感情面」に上手く対応する(4原則の1)で言及
「隣接的な問題」への対策
- FCRをあげるという考え方のさらに次を行くコンセプトという理解で良さそう
- 従来のFCRアプローチは以下
- 「1回で完了させる」という考え方
- 迅速に解決して次のTELに出る!
- そのために、プロセスの障害物を取り除くための解決ツールを提供してきた
- 評価の焦点は「顧客が話した問題を解決できたか」ということ
- 「次の問題回避」は全く違うアプローチ
- どうすればこの顧客が再び電話をかけなくてすむように出来るかという観点
- 先を見越して解決するためのツールが必要
- 評価は「再問い合わせが来ているか」
- (これを徹底的に追跡する必要がある)
実践方法の例
- まず分析する
- ちなみに以下はベストプラクティスの話
- 「問題」ではなく「イベント」という捉え方をする
- 「隣接する問題」を洗い出すための問題分類法を作成(けっこう大変なやつ)
- もっと簡易なアプローチだと以下がある
- いくつかのサンプルあkら再問い合わせになった理由を考える
- そのときにルールを設ける
- 2ステップではなく、1ステップずつだけを先回りして解決する
- 先を見越すのは発生率が20%以上のもの(比較的高いもの)に絞る
- 複雑な問題は扱わない(TELではに方法にする)
- それから評価する
- 次の問題回避を追跡するための最良の基準とは
- 7日間以内にかかってくる再問い合わせのTEL件数
- 分析したところほぼ5日以内だった
- 少数の無視できないものは7日以内もあった
- 長すぎると担当者が詳細を覚えてない
- 7~14日間を追跡期間とするのが良さそう
- 当社でいうと、リオープン見たり、同一顧客の問い合わせ状況を見たりかな
4. 「感情面」に上手く対応する(4原則の1)
- これは「次の問題回避」のうちの「潜在的な問題」のなかの「経験の問題」へのアプローチの話でもある
- 経験工学とは
- 告げられた内容を顧客がいい方向に解釈するように注意深く言葉を選択して、会話を思い通りに扱うこと
努力の中身において「感情的」な側面が重要
- 努力を増やす要因をおさらい
- 再問い合わせ、チャネル転換、転送、情報の繰り返し
- 「受け止め方」は非常に重要である
- 「経験についての顧客の認識」は全体の3文の2に相当する
- つまり、「やり取りをどう受け止めるか」は、「顧客がやりとりの過程で実際に何をしなくてはならないか」のほぼ2倍の重要性を持つ
- 企業は努力の「身体的労力」の側面に注力しがちだが、「感情的」な側面のほうが重要だ
「努力」と「労力」には差がある
- 顧客が感じる労力と努力にはデータから見て差異があった
- 労力→問題解決のために顧客が行った会話の回数や担当者の変更回数とかから算出
- 努力→顧客にアンケートして回答があったもの
- このことから導かれる結論は
- 多くの労力が必要なわけではないのに、顧客にとっては「努力」に感じられるインタラクションが多いということ
- 顧客の努力を軽減する方法に関する戦略の立て方が完全ではないということ
- 顧客努力 = 顧客がどう感じたか、ということの認識が重要
- UXへの物理的な側面への投資より、「感情的な」部分に目を向けるべき
- 顧客が自分の経験をどう感じるか、という観点が盲点になっている
顧客が感じる努力とはなんなのか
- 「何をするか」が3分の1、「どう感じるか」が3分の2
- 努力評価に際して顧客が最も重要視するのは、問題解決のために何をしなくてはならないかではなく、やり取りの過程やその後でどう感じるか、なのである
ソフトスキルへの過度の依存はよくない
- 以下は努力軽減にほとんど影響がないことがわかってる
- 情報伝達がわかりやすい
- 担当者が自身にあふれている
- 気遣いが伝わる
- マニュアルどおりではない会話
- 顧客を理解している
- しっかりと話を聞いてくれる
- ^ はもちろん重要なんだけど、これだけでは目に見える成果はでない
ではなにが努力軽減に影響あるのか
- それが「経験工学」
- 重要なポイントは以下
- アドボカシー
- 肯定的な言葉遣い
- アンカリング
- ソフトスキルと経験工学の違い
- ソフトスキル:顧客の問題を一貫性を持って扱うためのもの
- 「親切かつ親しみやすく、プロらしい態度」が基本
- 経験工学:
- 顧客を積極的に導くための目的がある
- 顧客の感情的な反応を予測することを目指している
- アプローチ方法として、顧客の問題に対し互いにプラスになる解決策を見つけ出すことに重点を置いている
どうやるのか?という具体的な話
- 「ノー」をなくす
- 否定的な言葉遣いを肯定的な言葉遣いへ変える
- 顧客に提供できないものを告げるのではなく、提供できるものを挙げよ
- これを実践してエスカレ率が半分まで現象、さらにCESが18.5%改善した例もある
- オルタナティブ・ポジショニング
- 代替案を顧客の利益と位置づけるということ
- 第一希望ではないことがはっきりとしている代替案を、顧客に第一希望と同じくらいに良い結果を得たと感じさせるくらいのテンションで承服させる
- 表面上以外のニーズを世間話レベルで聴取する
- 担当者に多大な努力が必要な状況を避けるための弁明をさせない
- 希望するものを提供できないときに、時間と精神的なエネルギーを消費しすぎる
- AHT(TEL事務処理時間)も下がった
- プロファイルを構築する
- 自分を把握されているのは努力程度を下げる結果が出た
- アドボカシ−が20%アップ、TELかけ直しが40%減
- 引き継ぎメモは取らせない
- 状況によって違うケースがあるから(決めつけないことが大事)
5. 努力を軽減するための権限をサービス担当者に与える(4原則の1)
- 一般的な管理:AHT(平均処理時間)の削減
- チェックリストによる品質保証 (=QA)
- エフォートレスを目指した管理:主導権を渡している
問い合わせの種類は昔と変わってきてる
- 簡単なものはセルフサービス(フロント)で解決されるようになっていて、複雑な問題だけが残される時代になった
- そんな環境の中で、ロイヤルティ向上と良いカスタマーエクスペリエンスに影響を与えるにはどのようなスキルと態度が必要か
- いっぱいあるけど大事なのはコントロール指数(CQ)である
- 立ち直りが早い
- プレッシャーに強い
- 責任を持つ
- 建設的な批判に肯定的に反応
- 長時間勤務できる
- 複雑な顧客環境で成功をおさめるカギは「顧客とのやり取りで主導権を握ること」
環境が大事
- ただ、CQは個人で見るとほとんどが持っていた
- そもそもない人はやめていくから
- けど企業単位で比較するとCQが発揮されているか否かの点で差が出てくる
- Quit Takin It Personally(個人的に受け止めない)が大事
- CQが高い環境を構築するには以下の3つが重要
- CS担当者の判断が信頼され尊重される
- 全ての顧客を同一に扱うと、一貫した高品質のサービス提供は達成されないと考える
- CS担当者が会社の目標を理解し、それに沿った仕事をする
- CS担当者間に互いにサポートしあう強力なネットワークが存在する
6. 顧客努力を測る指標について
- 『マクロの経験』
- CSAT:「満足」に関する回答と継続との相関性が見えなかった
- 満足って言ってるけど離反してる勢もいる
- NPS:ざっくり質問なので「個々のやり取りにおける顧客努力」が表面化してない
- サービス全体とサービス体験が分岐できない
- 『ミクロの経験』
- CES:サービス体験の影響をしっかり取れる
- 離反の恐れの顧客を特定できる
- シンプルな質問だから
- ただし、CESはロイヤルティ測定システムのデータの一つでしかない
- 色んな角度からデータを集める必要がある
7. エフォートレスを定着させることが重要
- 現状:セルフサービスによって顧客と企業の接し方が変わってきている
- コレまでのアプローチ:迅速に対応するために画一的なサービス対応をしていた
- コレはもう通用しない:複雑さを増す問い合わせに対してオペレータの労力をたくさん要求してきた
- データとしてディスロイヤルティを生み出す確率が4倍であるという結果がある
- サービスの新しい考え方:ディスロイヤルティの最大の要因はやり取りのなかで多大な労力を強いられていること
- 解決策:インタラクションをコントロールさせるためにコレまで以上に「信頼」をする必要がある
Ⅱ. 所感
- 顧客「努力」をなくすための解決策としてあげられているのが、業務プロセスの話ではなく、現場(コールセンター)を改善する話である点と、その改善がかなり具体的に書かれている点で、他の「カスタマーサービスはこうあるべき」本とは一線を画していると思う
- すなわち、現場の人間としては納得感が高い上に、何から手を付けていくべきかのヒントが分かりやすいと感じる
- 具体的にいうと4原則の内の2と3(「次の問題回避策」を実践する、「感情面」に上手く対応する)の部分
- まさに「改善は現場から始まる」と言っている裏付けになる部分
- この話は、カスタマーサービス/サポートは顧客ロイヤルティを上げる場所ではなく、下げる危険性の高い場所であると言っていて、だからこそやるべきことは顧客「努力」を下げることだと。
- もちろんその先にある「顧客ロイヤルティを上げるためにやるべきこと」はきっとあるはず(それはサービス体験も含んだものと思う=NPSとか?)だけど、まずやるべきはここだと感じた
- ただ、これやるためには現場への介入が必須で、今の状況だとむずいと思った
- クローズドにする、内製化する等でコーチングしやすい環境が必要だと思った
- コーチングしやすい、というのは単に契約や場所の問題でなくて、目標とかを一緒におえる状況にするという意味で
- CSATじゃなくてNPSじゃなくてCESがより優れているという点はちょっと納得ある説明がなかったので深追いしたい
- CSAT・NPSだとサービス/製品自体の体験も含めた総合的な回答(満足/不満足)だから、サポート体験またはいちプロセスにおける努力が見えにくいという話だと思っている
- それに対してCESはシンプルに顧客が「努力した」と感じる点を聞いているので直接的に知ることができる、という理解
- ライクヘルド著の「顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」」に詳しい記述があるらしいのでそれ読んでみる
- 次のステージに行くには、オペレータ(現場)に権限を与えることをめちゃくちゃ考えなければならない
- 最低限求めることと、彼らに期待することをきちんと表明する必要がある
- どうしても会社・チームが目指しているものと、現場オペレータの想いには乖離がある
- そのギャップをどこまで埋めることができるかはめちゃくちゃケアが必要
- 信頼することも大事だし、信頼するための環境づくりがマストで必要だと思う